わたしたちは急性期医療に携わる医療従事者に役立つ学術情報を提供します

麻酔時の肺の圧量曲線

麻酔時の肺の圧量曲線は通常の所見と大幅に異なっている。

1) 事実:コンプライアンスが低く、圧量曲線はS字を呈する。機能的残気量は減少している。

麻酔時の圧量曲線は機能的残気量付近では下に凸になり、その付近のコンプライアンスは著しく低い。したがって、麻酔や病的肺では圧量曲線がS字型を呈し、この下の曲線部分の移行部(傾斜の緩い曲線が傾斜の急峻な曲線に移行する部位)を"LIP"(low inflection point)が出現する。FRCが低下する。健康人で機能的残気量以上でとった圧量曲線にはみられない現象である。このような麻酔時の変化は、健康者の麻酔状態でもみられるが、特に上腹部手術や肺に病態の存在する状態では特に顕著になる。

2) 換気力学面異常のメカニズム:この換気力学の異常は、いくつかの要素の複合と考えられる。

2-1) 「横臥位」:立位や坐位では横隔膜は腹部臓器の重量で引き下げられ、胸郭容積は拡大する。立位や坐位の機能的残気量は大きく、クローズィングボリュームよりも大きいので気道はすべて開通している。

仰臥位では、腹部臓器の重量が横隔膜を頭側に圧迫し、直接胸郭容積を小さくする。容積の小さくなった胸郭内に肺は気量の小さい状態で存在する。

狭い胸郭内の肺は、「しなびた風船」で「ピンと張る力」(tensile force) を失って、上肺の重量が下肺にかかる。腹部臓器の重量も下部横隔膜を圧迫するから、下肺は横隔膜側からも特に強く圧迫される。

こうした条件によって、下部肺の肺気量は極端に小さくなり、虚脱と気道閉塞が起こり、換気を障害する。

2-2) こうした条件を、さらに悪化させる要因がさらにいくつかある。一つは、呼気における声帯の狭窄という一種のPEEP効果が、気管チューブでは消失することである。さらに手術の要因がある。横隔膜を経由して腹圧や腹部臓器の重量、手術操作の力が胸腔内容積を狭小化し、肺を圧迫する。

さらに、実体は判明しないが、反射の要素もあるらしいことが傍証的な事実よりいわれている。

このウェブサイトではクッキーを使用しています

クッキーの使用について