臍帯血の血液ガス分析

検体採取・測定の重要性について

臍帯血液ガス測定の意義(抜粋)

胎児を循環した臍帯動脈血測定をすることで、分娩時における胎児の代謝状態や酸素化に関する情報を得ることができます。すなわち、分娩時、胎児にアシドーシスがあったかどうか客観的に判断することができます。代謝性アシドーシスは血液のベース・エクセス(BE)が減少するため、pHの低下を引き起こします。分娩直後の臍帯血液ガス分析でpH値の低下が確認されると、分娩中に胎児の組織細胞への酸素供給が不十分であったことを示すことになります。

産科医療補償制度においては「一般審査の基準」を満たさない在胎週数が28週以上の児においては、「個別審査基準」として臍帯血液pHの検査結果を確認することが要件として設けられています。

臍帯血液ガス測定の読み方(抜粋)

血液ガスは次のようなステップで読みます。

① まずpHを見てアシデミアなのか、アルカレミアなのか判断します。
     pH<7.35:アシデミア、pH>7.45:アルカレミア
② 次にpCO2を見て、正常値より高いか低いか判断します。
③ 最後にHCO3を見て、正常値より高いか低いか判断します。

臍帯血液ガスの正常値の参考例として本文中に、臍帯動脈血と臍帯静脈血の中央値を掲載しております。

臍帯血液ガス検体の測定前エラーの対策について

臍帯血液ガス検体は正確な結果を得るため、通常の血液ガス用検体と同様に下記の測定前の誤操作を防止することが重要です。専用シリンジに針を接続させて必要採血量を吸引採血しますが、その際に安全機構付き採血用針を活用するとより安全に採血操作を行えます。

【測定前エラーの例】

1. 凝血・クロットの形成
【影響】血液検体は採血直後に抗凝固剤のヘパリンと十分に混和しないと凝血することがあります。凝血のある検体は均一でないことから、結果の信頼性が低くなり、測定ができない場合があります。
【対策】抗凝固剤のヘパリンが添加されている血液ガス測定専用シリンジ(以下、専用シリンジ)を使用して採血します。特に乾燥電解質バランスヘパリンで処理された専用シリンジを使用すると前処理が必要なく、液体ヘパリンで生じる希釈誤差を防止できます。さらに、撹拌子を含有している専用シリンジを使用すれば容易に検体の混和が実施でき、検体の迅速なヘパリン化が望めます。

2. 気泡混入
【影響】検体に気泡が混入しているとpHやpO2値が偽高値となる可能性があります。
【対策】検体採取後、シリンジ壁を静かにたたき、気泡を上方に集め気泡を除去します。気泡除去機能付きのキャップを使用した専用シリンジを使用すると血液に接触することなく、気泡を除去することが可能です。

臍帯血液ガス検体の採取方法と測定について

【採取前準備】

  • 手袋を装着します。
  • 臍帯血検体と新生児との確実な紐付けが確保できるよう、バーコードあるいはIDラベル貼付済みシリンジを用意します。
  • 抗凝固剤のヘパリンで処理されているシリンジを用意します。乾燥電解質バランスヘパリン処理されている専用シリンジを使用すれば、前処理の手間や液体ヘパリンによる希釈誤差を考慮する必要がなくなります。
  • シリンジに21G~23Gの針を接続させます。安全機構付きの採血用針を活用するとより安全に採血できます。
  • プランジャー(吸子)を一番下まで押し込んだ状態にセットします。
  • 臍帯をクランプするためのコッヘル鉗子・臍帯クリップ等を3-4本準備します。


【検体採取】


臍帯動脈血検体の採取は次の手法で実施できます。 

  • 臍帯動脈血は経時変化することが知られているため、臍帯動脈血検体は新生児の出生後1分以内、直ちに臍帯の一部(①②③)をクランプします。

臍帯クランプ

  • 臍帯クランプ後、①と②の間を切断し、新生児を臍帯から切離し、母体腹壁もしくはインファントウォーマーなどに移動させます。

臍帯から切離

  • 胎盤が娩出する前もしくは娩出した後、②と③の間から可及的速やかに検体を採取します[5-6]。

臍帯血採取

臍帯動脈からの採血手順は下記の通り実施します 

  • シリンジのプランジャー(吸子)を一番下まで押し込んでおきます。 
  • 針を動脈と並行方向に導入し、プランジャーを引いて臍帯動脈血検体を採取します。

臍帯動脈からの採血

臍帯動脈血の採取

【検体採取後、測定前操作】

針を取り外し、専用のコンテナへ廃棄します。安全機構付きの採血用針の場合、次のように廃棄します:

採血用針の廃棄

  • 平らな場所を利用して安全機構のキャップ部を針管に「カチッ」と音がするまで被せます。 
  • 針の先端に触れないように針を安全機構ごとシリンジから取り外し、適切に廃棄します。 
  • シリンジ壁を静かにたたき、気泡を上部に集め、プランジャーを少しずつ押し上げて気泡除去を行います。 
  • シリンジにキャップを付けて検体を密封します。 
  • 血液検体とヘパリンを十分に混和します。


【検体の測定】

  • 検体を直ちに血液ガス分析装置まで運搬します。 
  • 測定前に再度サンプルを混和します。
    撹拌子を含有しているシリンジで検体採取していると混和が容易になります。 
  • サンプルは直ちに測定します。
    すぐに測定できない場合でも、検体採取後30分以内に測定する必要があります。

ABL9血液ガス分析装置

まとめ

臍帯動脈血ガス分析を行うことにより、胎児が分娩直前に低酸素・虚血にさらされていたか判断することができます。産科医療補償制度で臍帯血動脈ガス分析を行うことを推奨しているのは、脳性麻痺発症の要因が分娩直前の低酸素・虚血の因子によるものか分娩時の要因は関与していないかが臍帯動脈血ガス分析の結果によって判断できるからです。 実際には、出生時仮死のない児に発症する脳性麻痺のほうが重症仮死に起因する脳性麻痺より実数は多いため、 仮死のない児においても臍帯動脈血液ガス分析を施行し記録を残しておくことが重要です。

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