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患者-検体マッチングシステム
AQURE FLEXLINK運用の医療安全学上の有用性

名古屋市立大学病院では血液ガス検体取り違え防止を主眼とした医療安全上の対策として、患者-検体マッチングシステムAQURE FLEXLINK運用を導入しています

患者-検体マッチングシステム AQURE FLEXLINK 導入に至るまで

名古屋市立大学病院の手術室と集中治療部(以下、ICU)についてご紹介ください。

祖父江先生:名古屋市立大学病院全体として808床あります。手術室は外来手術室を含め16室で運用しており、手術件数は年々増加しています。現在は年間約8,500~8,600件を実施していますが、その中で麻酔科管理がされているのは年間約5,000件です。

当院では、小児心臓血管外科、小児泌尿器科、小児整形外科などの特徴的な科や、ハイブリッド手術室も備えており、様々な手術を実施しています。また、病院として特徴的なこととして、Post Anesthesia Care Unit(以下、PACU)を常備していることです。PACUは「術後回復室」「リカバリールーム」と呼ばれることもあり、現在国内では10数パーセントの病院にしか設置されていません。

術後患者の全身状態を監視できる部屋を設置することによって術後の合併症・重篤な有害事象の発症を予防することに繋がることが分かっています。

ICUは、全科から患者さんを引き受ける一般ICUです。病床数は10床あり、うち小児患者向けのPICUは4床で、隣接して循環器科が管理しているCCUが4床あります。

私自身、麻酔科および集中治療部部長という立場から、より効率的で安全な周術期医療の管理を確立させなければならないと日々考えています。

手術室およびICUにそれぞれ血液ガス分析装置(ABL800シリーズ)が設置されています。
従来の血液ガス測定の運用について教えてください。

祖父江先生:ICUにおいては数年前までは医師が採血から測定までの全ての作業を実施していました。教育面および重篤事例が多いことから、日中は医師が3人体制でICUに常駐しているということもあり、自分たちで血液ガス測定を実施していた経緯があります。ただ看護部と話し合いを重ね、医師一人で一連の血液ガス測定を実施することは、医師が患者さんから離れている時間を作ってしまい、患者さんに不利益が発生する可能性もあるということで、最近では血液ガス測定について協力をお願いするようになりました。

永井先生:そうですね。ICUでは基本的に医師が採血から測定まで実施していたことが多かったです。しかし、緊急で対応しなければならない事態においては、医師が患者さんのそばを離れるわけにはいきませんので、そのような場合は看護師に血液ガス測定業務をお願いしていました。ただ、その中でも血液ガス測定の経験が少ない看護師もいるので、測定をお願いする際には血液ガス測定装置の操作方法や入力方法などを習得している看護師にお願いするようにしていました。

手術室での運用については、麻酔科医がその場を離れられないので、採血は麻酔科医が実施して血液ガス検体の運搬は看護師にお願いしていました。検体を運搬している看護師が血液ガス測定操作手順や入力方法を習得しているのであれば、そのまま検体の測定まで実施してもらっていました。

平手先生:血液ガス測定業務経験が少ない看護師の場合は、「ディレクター」と呼ばれるその日の手術室の主任医に検体を渡し、ディレクターに測定を実施してもらう形で運用していました。

手術室・ICUのいずれの現場においても、測定者が測定結果を受け取るベッド番号(手術室であれば部屋番号)やFiO2などの値を血液ガス測定装置の前で紐付け操作を実施していました。

それでは麻酔科医の先生が一貫して採血から測定まで実施されるような場合と、麻酔科医の先生から看護師の方、看護師の方からディレクターの先生へと検体の受け渡しが発生する二通りの運用があったということですね。
それでは、患者さんと検体の紐付けは従来どのように実施されていたのでしょうか。


永井先生:
複数の医療従事者を介して検体が運搬されていた手術室では、従来は麻酔科医から看護師へと検体の「部屋番号」・「FiO2の値」を口頭で伝えていました。またその看護師が検体の情報をディレクターに伝えるという、口頭での申し送りで実施されていた運用でした。

平手先生:私はディレクターの立場でいることが多く、その中で様々なことに注意を払いながら業務をすすめています。いざ、血液ガス測定を実施するタイミングになると、その検体の部屋番号やFiO2の値が思い出せずに、再度問い合わせをするケースもありました。また、中には、正しい部屋番号を認識していながら違う部屋にデータを送信してしまったりというケースも発生していたこともありました【図1】。

従来の測定手順

複数の医療従事者を介する運用では、口頭のみでの申し送りにご苦労されていたということですね。 
検体と部屋番号(患者)の紐付けエラーが発生した主な要因は口頭での申し送りだったのでしょうか。


祖父江先生:
いえ、複数の医療従事者を介していないICUではエラーが発生していなかったか?と聞かれると決してそうではありませんでした。一人の麻酔科医が採血から測定まで一貫して実施していたケースでもエラーはゼロではありませんでした。

例えば定期採血時などでは複数の検体を持ち血液ガス測定装置の前でベッド番号と検体を照合させていた訳ですが、正しいベッド番号のバーコードを単語帳のようなものから探し出さなければなりませんでした。この紐付けをする際に誤送信が発生してしまい、訂正することがたびたび見受けられたので、私としてもこのような事態を防止したいと常に気にしていました。

血液ガス検体の取り違えを防止する重要性についてお聞かせください。


祖父江先生:
血液ガス測定は特に、即座に検査結果を臨床意思決定するために必要な検査です。特に近年では血液ガス分析装置でpH/pCO2/pO2以外にも測定できる項目が増え、それに伴い検体を取り違えることで潜む医療安全リスクは高いと思います。

例えば、血液ガス検体の測定結果を確認して電解質の値を確認し補正の指示を出す、pCO2の値を見て換気回数の調整をする、アシデミアに対しての原因を探るなど、血液ガス測定結果に基づいて即座に様々な治療方針の決定がなされます。

検体の取り違えがあると、その患者さんの状態に沿わない治療方針が決定されるリスクはあると思います。ただ、幸いにも我々の病院では、医師が検査結果に対し違和感を覚え、直近の検査データを確認し、治療方針を決定する前に検体の取り違えが発生していることに気付くことができていたので、重大な問題には至りませんでした。

患者-検体マッチングシステム AQURE FLEXLINKを導入しようと決めたきっかけや経緯について教えてください。


祖父江先生:
きっかけは、血液ガス測定に使用していたラジオメーター社製の動脈血採血キットのシリンジにバーコードが付与されていることに気付いたことから始まりました。シリンジに刻印されているバーコードについて質問した際に、各シリンジに固有のバーコードが貼付されていると教えてもらいました。その固有のバーコードを活用し、検体を採血した時点で患者さんとシリンジをマッチングさせるシステムがあるとも。

システムについて詳細を聞くと、患者さんのベッドサイドでシリンジのバーコードを読み込ませて、ワンクリックで患者さんとの紐付け操作ができるとのことで、非常に簡単な運用で驚きました。これまで懸念していた検体の取り違えに対する良い対策と思い、すぐに導入を決定しました。

永井先生:先ほどお話ししていた通り、一麻酔科医としても、口頭での申し送りがうまく行かないケース、朝の時間帯など検体が集中する際や緊急対応に追われている際には検体取り違えのミスが起きてしまうリスクが高まる事を懸念していました。もちろん、そのミスには測定結果から気づくのですがそれを修正するにも労力も人手もかかってしまい、エラーをゼロにすることができない現状がありました。この現状から脱却したいとの思いが、導入に対し積極的であった理由の一つでした。

また、私自身、看護師向けに血液ガス測定に関する勉強会を実施してきた経緯もありますので、なるべく看護師の方にも伝えやすく、実施してもらえる様な血液ガス測定運用の導入が好ましいと感じていました。

従来の運用からAQURE FLEXLINK運用への切替の際、慣れるまでにお時間はかかりましたでしょうか。


祖父江先生:
現場には非常にスムーズに受け入れられたと思います。今まで医療安全に関わるものを導入して浸透するまで時間がかかっていましたが、今回のAQURE FLEXLINKはすぐ浸透しましたし、スタッフには大変喜ばれているシステムだと感じています。

意外に実施するアクションが少ないですね。ワンクリックで呼び出せるシステムですし、通常は従来の運用から変更があると定着するのに時間がかかるものですが、今回のAQURE FLEXLINKシステムはスムーズでしたし、とてもSMARTに操作できるシステムだと思います。

平手先生:測定ではシリンジを置くだけで全てが完結する運用ですので測定者にとって、とても簡単な運用ですよね。今までは血液ガス測定装置の前で「ベッド番号(部屋番号)」「FiO2」の入力などを実施しなければいけなかったので、それが中々手間と感じる方もいました。

新しい運用では採血者がベッドサイドで情報を登録しますので、測定者にとってはとてもシンプルな操作になっています。簡単な操作はすぐ定着しますので、従来の運用からの切替はさほど難しくなかったです。

永井先生:基本的には血液ガス検体を置き、「承認」するだけで測定操作が実施できますので、装置への情報入力の必要もなく、運用も非常に速やかに普及できたと思います【図2】。

AQURE FLEXLINKでの運用

AQURE FLEXLINK運用紹介ビデオ

名古屋市立大学病院で導入した患者-検体マッチングシステムの運用方法を是非ご覧ください。

患者-検体マッチングシステム AQURE FLEXLINKの運用を開始してから“目に見える変化”などはございましたでしょうか。


祖父江先生:
新しい運用では患者のベッドサイドで登録操作を実施するのでエラーが入る要素がないですね。

平手先生:そうですね。以前は血液ガス測定装置の前に到着してから初めて実施していた紐付け操作を患者さんのすぐ横で実施できるようになったので、「目に見える変化」としては検体の取り違えがなくなったということでしょうか。お話ししたとおり、以前は違う患者さんの端末にデータを送ってしまうこともありましたが、AQURE FLEXLINKでは、対象の患者さんのベッドサイドでその方の情報管理システム画面から紐付け操作をするので、新しい運用になってからほぼゼロになりました。

管理業務を任されていたり、ICUなどの忙しい現場で働いていると様々なことを同時並行で行っています。完全に一つの作業のみに集中することができないこともありますので、AQURE FLEXLINKのようにシステムを活用して、人的ミスを削減できたというのは大きいと感じています。

永井先生:もう一つ、「目に見える変化」を上げるとすれば、看護師の方も進んで血液ガス測定を実施してくれるようになったことでしょうか。以前は血液ガス測定装置の前で「測定」ボタンを押すことに躊躇していた看護師も、最近では測定と測定結果の確認を積極的に実施してくれています。全身管理につなげようと考えてくれる気持ちがより一層強くなったと感じています。

患者―検体の紐付け操作時の選択肢を限定する事で、検体の取り違え防止につながり、測定時の操作を減らすことでより多くの方にも積極的に関わって頂ける様になったということですね。
今後の周術期医療における医療安全への取り組みとして、どのようなことが求められてくるのでしょうか。


祖父江先生:
今回活用しているシリンジのように、周術期の現場ではバーコードを用いた運用はもっと活用する場が多くあるように思います。また、バーコードを超えて、ICタグなどでより多くの情報を登録できるものを活用することでより安全に医療を提供できるようになるのではないでしょうか。どうしても人的エラーはゼロにはできず、システムを用いて防いでいくことが必要だと感じています。

また、現在では周術期医療で使用しているデータは何となく連携されているように見えますが、例えば一つのシステムの画面で集約された情報が確認できることがより安全でかつより良い周術期医療の提供に繋がるのではないでしょうか。特に今回導入したAQURE FLEXLINKシステムのように、確実に、正しい情報を確実に正しい患者の元へとデータ連携できるシステムは間違いなく今後も需要があると考えています。

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